企業再生とは企業の存続の危機から脱するために、原因を排除して再生を目指すことです。
物価高やコロナ不況などの影響により経営が傾く企業が増えたため、最近では企業再生が注目されています。
本記事では、企業再生と事業再生の違いやメリット、方法についても解説します。
企業再生を検討されている方は参考にしてください。
企業再生とは
- 企業再生
- 事業再生
- 再生方法
- 存続危機
- 経営破綻
- 倒産
- 経営戦略
- 資本強化
- 債務整理
- リーダーシップ
企業再生の目的
企業再生の目的は、単に企業を存続させることではありません。
主な目的は、その企業が持つ価値を最大限に引き出し、経営状態を健全な状態に戻すことです。
経営が健全な状態に戻ることで倒産や清算が回避できるため、従業員や取引先、株主など、企業に関わるすべての人々にとってメリットがあります。
企業再生と事業再生の違い
企業再生と事業再生は、両方とも会社を立て直すための手法ですが、その目的やアプローチに違いがあります。
まず企業再生は会社全体の経営改善を目指すための手法です。
「業績が悪化している・借入金が増えている・人員削減を余儀なくされている」などの様々な課題を抱えた会社が対象になります。
一方で、事業再生は、特定の事業の経営改善を目指すための手法です。
「収益が低下している・不採算事業がある・市場の変化に対応できていない」など、特定の事業に課題を抱えた会社が事業再生の対象になります。
このように、企業再生と事業再生には大きな違いがあることを理解しておきましょう。
企業再生のメリット
企業再生には、以下の6つのメリットがあります。
- 企業再生により、倒産の危機に瀕している企業が再生されることで、会社の存続が可能になる
- 企業再生に適した手法が取り入れられることで、経営状態が改善され、企業の持続的な成長を図ることができる
- 企業再生に成功すれば、企業の存続が可能になり、従業員や関係者の雇用が守られる
- 企業再生に関わった社員たちは、大きな達成感を感じられてモチベーションの向上や愛社精神が育まれる
- 取引先の支払いの遅れの解消や株主の利益の確保につながる
- 債権者からの借入金を返済できる
上記のように、企業再生は経営陣だけでなく、従業員や取引先などの企業に関わる多くの方にとってメリットがあります。
企業再生のデメリット
企業再生は経営者にとって精神的な負担が大きいというデメリットがあります。
例えば、複数のステークホルダーとの交渉や協議が必要となり、それに伴って時間も取られます。
また、人員削減が必要になるケースも少なくありません。
このように、企業再生を成功させるためには、経営者の積極的な取り組みが必要になるうえに責任も大きいため、精神的な強さが求められます。
企業再生を実施するための条件
企業再生を実施するためには、いくつかの条件を満たしておく必要があります。
条件を満たしていないと企業再生に失敗する可能性があるためです。
企業再生を検討しているなら、自社が条件を満たしているのか確認してください。
経営者に再生の意志がある
企業再生を実施するにあたり、経営者には強い意志が必要になります。
経営者が企業再生の必要性を理解し主体的に取り組む姿勢がないと、長期化しやすい企業再生に成功する可能性は低くなるためです。
もちろん、それだけでなく再生計画の策定や実施においてリーダーシップを発揮し、社員や関係者を巻き込んで取り組む必要があることも理解しておきましょう。
資金繰りが正常化できる見通しがある
企業再生では資金繰りの正常化が必要になります。
中小企業者が資金を適時かつ円滑に調達するためには、資金力が重要なためです。
例えば、企業再生を実施して返済負担の軽減や一時的な赤字解消ができたとしても、再び債務超過に陥ってしまって企業再生が成功しません。
また、資金繰りの改善をサポートしてくれる金融機関も、改善の見通しがまったくない状態では資金を融資してくれない可能性が高いです。
このため、企業再生を実施する際は、債務整理や再生計画の策定し、資金繰りの改善できる見通しがあることを金融機関などにアピールするようにしてください。
事業が再生できる見込みがある
企業再生は収益の回復と拡大が必要になるため、事業が再生できる見込みがあるかどうかも重要です。
当然、収益を上げるには顧客に企業の製品やサービスを購入してもらう必要があるため、事業の需要を確認し事業が改善できるかどうかを判断する必要があります。
仮に需要がなければ企業は利益を上げることができず、返済の見通しが立たないため再生することはできないためです。
企業再生を実施する際は、自社の事業に需要があることを確認するようにしてください。
債権者の協力が期待できる
企業再生を実施する際は、債権者の協力が必要不可欠です。
債務の返済負担を軽減できなければ企業再生を成功させることは容易ではないためです。
なお、債権者の協力を得るためには、再生計画を策定して債権者に対して説明を行い、理解を得ることが必要になります。
再生計画の中で債権者に対する返済条件や手続きを明確にして、債権者の信頼を得るように努めましょう。
企業再生の方法
企業が通常通りの営業を行いつつ再生を果たすことができればよいのですが、過大な負債があり債権カット又は債権の支払猶予などを得なければ再生できないような場合は、法的再生と私的再生などの方法をとる必要があります。
法的再生
法的再生とは裁判所の介入を受けて債権カットを行う手続きです。
裁判所の監督のもとで、債務整理や資産の処分、事業の縮小や再編成などの手続きが行われます。
メリットとしては、債権者の反対を無視して再生計画を実行できる点です。
また、裁判所が介入することで再生計画の公正性が確保され、債権者が平等に扱われることもメリットと言えるでしょう。
反対に、法的再生には裁判所による介入が必要であり手続きに時間や費用がかかることがある点や、計画実行のためには経営陣の協力が必要である点などのデメリットがあることも理解しておくようにして下さい。
なお、法的再生には主に「民事再生」と「会社更生」の2つの種類があります。
民事再生は、債務者が自ら作成した再生計画を裁判所に提出し、債権者の多数決によって再生計画が承認される手続きです。
一方で、会社更生は企業が経営再建を目指すための法的手続きで、債務者が裁判所に更生手続きの開始を申立て、再生計画案が債権者や株主の同意を得て裁判所の認可を受けることで、実行に移されます。
私的再生
私的再生は企業再生の手法の一つで、民事再生法のような法的手段を伴わず、債権者との話し合いで債権カット又は債権の支払猶予などを進められる手法です。
企業再生の手法の中でも柔軟性が高いため、迅速に再建を実現することができます。
しかも、法的再生に比べて簡易的で手続き費用も安価です。
このため、中小企業を中心に活用されています。
私的再生のメリットを以下にまとめたので確認しておいてください。
- 法的手続きではないため債権者との直接交渉で条件を調整でき、柔軟な対応が可能である
- 法的手続きに比べて、スピーディーに再建プロセスを進めることができる
- 法的手続きを避けることで、取引先や顧客への信用力を維持しやすくなる
私的再生には上記のようなメリットがありますが、債権者から合意や協力が得られない可能性があることも理解しておきましょう。
経営の再生
法的整理や私的整理をせずに経営を再生する方法になります。
債権カットなどをする必要になる前に行う再生手段であるため、経営の再生の段階で経営が立て直せる場合は、私的再生や法的再生を行う必要はありません。
経営の再生の手段としては主に以下の方法が挙げられます。
- リストラクチャリングを行い、事業を整理する
- 経費を見直す
- 整理解雇を検討する
上記の方法で人員や不採算事業の見直しなどを行うことで赤字がなくなり、経営を立て直すことができます。
このように経営状態が悪くなっている場合は、まずは経営の再生を検討してみてください。
企業再生の流れ
企業再生の流れは以下の通りです。
1. デューデリジェンスを行う
2. 関係者への事前対応を行う
3. スポンサーを探す
4. 再生計画案を策定する
5. 実行とモニタリング
デューデリジェンスを行う
事業再生におけるデューデリジェンスとは、企業の現状を把握し再生可能性を判断するために重要なプロセスです。
デューデリジェンスを実施することで「財務・法務・事業」などの面から対象企業を調査し、経営状況を正確に把握することができます。
関係者への事前対応を行う
企業再生を行う際は、従業員や取引先などに企業再生についての事前説明を行う必要があります。
不本意な形で企業再生が取引先などに知られてしまうと、取引関係に悪影響を及ぼしかねないためです。
また、企業再生には従業員の協力が必要不可欠なことも理由の一つと言えます。
人員整理が必要になるケースもありますが、基本的に従業員がいなければ事業は再生できません。
事前に従業員に説明しておかないと必要な従業員が辞めてしまう可能性があります。
スポンサーを探す
企業再生に着手するためには、必要な資金を確保する必要があります。
自己資金がない場合は金融機関から融資を受けるか、経済的に余裕のある出資者を見つけるといいでしょう。
出資者が多ければ多いほど、資金的な余裕ができ、企業再生に成功する可能性は高まります。
しかも、新たなスポンサーを募ることで、債権者や銀行家の信頼も得ることが可能です。
再生計画案を策定する
何が問題なのか洗い出して問題把握した後は、経営改善策を盛り込んだ事業再生計画書を作成して、具体的な行動に移す準備を整える必要があります。
しかし、事業再生計画と言われてもどのように作成すればいいか分からないという方も多いのではないでしょうか。
事業再生計画書に盛り込む経営改善策は、企業の状況に応じて異なるためです。
例えば、財務改善を行う際は、「資金繰り改善・コスト削減・資産売却」などが有効になります。
また、事業改善を行う際は「新たな事業展開・事業の統廃合・業務効率化」などを検討してみるといいでしょう。
実行とモニタリング
策定した事業再生計画を基に法的再生を行う場合は裁判所の関与を受けながら、私的再生の場合は債務者と債権者の交渉を実施しながら企業再建を目指します。
しかし、事業再生計画はあくまでも計画です。
そのため、計画の実行にあたっては、状況の変化に柔軟に対応し、適時修正が必要になります。
企業再生の注意点
企業再生を実施する際は、注意点を理解しておく必要があります。
整理解雇を実施するなら4つの要件を満たす必要がある
企業再生を実施する際に整理解雇を行う場合は以下の4つの要件を満たす必要があります。
・人員整理の理由があること
・解雇を避けるために努力していること
・被解雇者の選定方法に合理性があること
・手続の妥当性があること
これらの要件を満たしていないのに解雇を実行する場合、「解雇権の濫用」とみなされる可能性があるため注意が必要です。
現状と原因を把握する
企業再生を行うためには、会社の現状を把握し、どのような原因で経営が悪化しているのかを把握しておく必要があります。
原因や会社の状態を把握できていないと、「普通再生で立て直しできるのか」など適切な事業再生の方法を選択できないためです。
また、原因が把握できていないと有効な対策が取れずに企業再生に失敗してしまう可能性があります。
このような事態に陥らないためにも、しっかりと会社の状態を分析するようにしましょう。
事業の将来性を分析する
企業再生において「事業に将来性があるのか」を見極めることは非常に重要になります。
事業の立て直しができないと、企業再生できずに倒産する可能性があるためです。
そのため、事業再生計画を策定し、本当にその計画で事業が再生できるのかをよく分析する必要があります。
ちなみに、自社で再生が難しい場合は、M&Aなどを利用して譲渡先の経営資源を用いて再生するという方法もあるので、さまざまな手段を検討してみてください。
民事再生には時間がかかる
民事再生の手続きには半年程度の時間がかかります。
しかも、民事再生手続きが始まると銀行からの融資が難しくなる可能性が高いです。
そのため、民事再生の手続き期間を乗り切れるだけの運転資金を確保しておく必要があります。
仮に運転資金がない場合には、民事再生の手続き中に破産しないためにもスポンサーを探して資金を確保するようにしましょう。
専門家に相談する
企業再生で複雑な手続きの法的整理をする場合は、法律面の知識が必要不可欠です。
また、私的整理の場合も金融機関をはじめとする各所との細かな交渉が必要になるため、経営者だけで行うのは容易ではありません。
そのため、弁護士などの専門家に相談する方がいいでしょう。
企業再生の成功事例
企業再生に成功した以下の事例を紹介します。
- 日本航空(JAL)の事例
- 旧カネボウ株式会社の事例
- 日本テレコムの事例
- 日立製作所の事例
上記について紹介するので参考にしてみてください。
日本航空の事例
企業再生に成功した実例としては、かつての日本航空(JAL)が挙げられます。
JALは2009年に約2.3兆円の負債を抱え、破産寸前の状況にありました。
しかし、2010年に「JAL再建団」が再建計画を策定し、国・金融機関・取引先・労働組合などが協力して再建を進め、以下の方法を実施しました。
- 金融機関の債権放棄
- 公的資金の注入
- 人員削減
- 子会社の売却
上記のように債務を整理して、大幅なコストダウンを行ったことで、その結果2017年には株式公開を果たして再建に成功しています。
旧カネボウ株式会社の事例
企業再生が成功した例としては、「旧カネボウ株式会社」も挙げられます。
2000年代初頭、カネボウは化粧品部門で大規模なリコールを余儀なくされ、経営が悪化しました。
リコールの影響で信頼を失ったこともあり、経営状況は回復せず、企業再生手続きを行うこととなりました。
ちなみに、カネボウは企業再生法に基づく再生計画を策定し、以下の内容を実施しています。
- 事業再編を進めることで資本構造を改善する
- 化粧品部門をコーセーに売却し、ファッションや家庭用品などの事業を縮小する
- 経営改革を進め、ブランド再構築する
上記の取り組みに加え、新たなマーケティング戦略や商品開発を行愛ことで、消費者の信頼回復でき経営状態が改善され、再建に成功しています。
日本テレコムの事例
2000年にイギリスのボーダフォンに買収された後、日本テレコムは固定電話事業の衰退や、固定電話サービスへの先行投資失敗などが重なり、最終的には814億円の赤字を計上してしまいました。
その後、2004年にアメリカの投資会社リップルウッド・ホールディングス傘下であった日本テレコムは、ソフトバンクによって完全買収され、同社の100%子会社となりました。
以前は何度かの身売りを経験していた日本テレコムですが、ソフトバンクの傘下に入ることで、営業の強化や積極的なコスト削減などが進められ、約3年後には見事に経営を立て直し、ソフトバンクグループの収益にも貢献するようになりました。
このように、日本テレコムは優良企業に買収されたことがきっかけで、経営を立て直すことができた企業です。
日立製作所
かつて総合電機メーカーの一角を担っていた日立製作所は、リーマンショック後の2009年にグループ存続の危機に陥り、当時の赤字額は7,873億円に達していました。
そこで、同年に経営のトップに就任した川村隆氏は「選択と集中」を掲げ、事業の大転換を進めることを決断。
具体的には、鉄道システムなどの「社会インフラ」とIT分野に経営資源を集中させるため、それ以外の上場子会社を売却もしくは完全子会社化して事業整理を図ったのです。
この「攻めの売却」により、日立製作所は見事なV字回復を果たし、2021年3月期に過去最高の5,016億円の純利益を達成しました。
企業再生の失敗事例
企業再生に失敗した以下の事例を紹介します。
- 株式会社レナウンの事例
- 太洋産業株式会社
上記について紹介するので参考にしてみてください。
株式会社レナウンの事例
企業再生を失敗した例としては、「株式会社レナウン」の事例が挙げられます。
株式会社レナウンは長年の赤字経営に加え、新型コロナウイルスの影響で資金難に陥り、2020年5月に民事再生法の適用を申請しました。
しかし、レナウンはスポンサー選定が難航してしまい、ブランドや事業ごとの譲渡を複数のスポンサー候補と協議。
その結果、事実上の解体が決まり、主力の5ブランドと子会社1社は譲渡されました。
このように、スポンサーが見つからないと企業再生が失敗する可能性があることを理解しておきましょう。
太洋産業株式会社
企業再生を失敗した例として「太洋産業株式会社」の事例も挙げられます。
太洋産業は創業80年以上の歴史を持ち、かつて300億円を超える年商を上げる優良企業でしたが、2011年3月11日に発生した東日本大震災の影響を受け、岩手県の大船渡工場が大津波の被害を受けたことにより経営悪化。
民事再生を目指すこととなりました。
しかし、主力のサンマやアキサケの漁獲量の減少などにより厳しい営業環境が続き、スポンサーが決まらないまま2018年に手続き廃止決定を受けたのです。
このように主力の事業が厳しい状況にあると、企業再生をしたくてもできない可能性があることを理解しておきましょう。
まとめ
経営が悪化した企業が倒産の危機を脱出するためには、企業再生を行う必要があります。
企業再生が成功すると取引先や株主など多くの方にメリットをもたらすことが可能です。
しかし、手順や注意点を理解していないことで手続きがスムーズいかず、失敗してしまう事例も少なくありません。
そこで、本記事では、企業再生と事業再生の違いやメリット、方法について解説しました。
企業再生を検討しているなら本記事を参考にしてみてください。