新規開業・スタートアップ支援資金とは?女性・若者・シニアの創業融資の特別利率

本記事は、女性、35歳未満又は55歳以上の方で、日本政策金融公庫の創業融資を利用して起業しようとしている方に向けたものです。

現在は、まず新規開業・スタートアップ支援資金に申し込み、女性、35歳未満又は55歳以上といった要件に該当する場合に特別利率Aの適用を受けるという仕組みです。インターネット上には旧制度を前提とした解説が残っているため、制度名や限度額等の情報がいつの時点のものかを確認することが大切です。以下、順にご説明します。

女性の方、35歳未満の若年の方、55歳以上のシニアの方が起業される場合に、日本政策金融公庫の「女性、若者/シニア起業家支援資金」を前提として情報を集めておられる方は少なくありません。

もっとも、令和6年(2024年)4月以降、日本政策金融公庫の創業融資の制度は「新規開業・スタートアップ支援資金」に一本化されており、従前独立した制度として設けられていた女性、若者/シニア起業家支援資金は、同資金における特別利率の区分として位置付けられています。

この記事では、現在の制度の枠組みを整理したうえで、女性、若者及びシニアの方が創業融資において受けられる優遇の内容、利用の要件、申込みの流れ、留意点を解説いたします。

現在の制度の枠組み

日本政策金融公庫の創業関連の融資制度は、令和6年3月末をもって、従前の「新創業融資制度」及び「女性、若者/シニア起業家支援資金」が廃止され、「新規開業資金」と統合される形で「新規開業・スタートアップ支援資金」に一本化されました。

したがって、現在は、まず新規開業・スタートアップ支援資金という一つの制度に申し込み、そのうえで、女性、35歳未満又は55歳以上といった要件に該当する場合に特別利率Aの適用を受ける、という構成になっております。「女性、若者/シニア起業家支援資金」という独立した制度に申し込むという建て付けではありません。

インターネット上には旧制度を前提とした解説が多数残っておりますので、制度名、限度額、自己資金要件、据置期間などの記載を参照される際には、その情報がいつの時点のものかを必ずご確認ください。

新規開業・スタートアップ支援資金の内容

利用できる方

新たに事業を始める方、または事業開始後おおむね7年以内の方が対象とされています。あわせて、適正な事業計画を策定しており、当該計画を遂行する能力が十分にあると認められることが求められます。

資金の使いみち

新たに事業を始めるため、又は事業開始後に必要となる設備資金及び運転資金です。

融資限度額

7,200万円とされています。

返済期間及び据置期間

設備資金は20年以内(うち据置期間5年以内)、運転資金は10年以内(うち据置期間5年以内)とされています。

担保及び保証人

希望を伺ったうえで相談する取扱いとされています。経営者保証を回避したい場合には、経営者保証免除特例制度の適用の可否を事前に確認することとなります。

女性、若者及びシニアの方に対する優遇の内容

新規開業・スタートアップ支援資金においては、一定の要件を満たす場合に、基準利率よりも低い特別利率が適用されます。

特別利率Aの対象として挙げられているものには、女性の方、35歳未満の方、55歳以上の方のほか、認定特定創業支援等事業を受けて事業を始める方、中小企業の会計に関する基本要領等を適用する方などがあります。旧「女性、若者/シニア起業家支援資金」に相当する優遇は、この区分に引き継がれております。

なお、年齢に関する要件は、女性については年齢を問わず、若者については35歳未満、シニアについては55歳以上とされているのが従前からの取扱いです。年齢の基準時については、申込みの時点を基準とするのが通常ですので、境界に近い場合には事前にご確認ください。

さらに、ベンチャーキャピタル等から出資を受ける場合には特別利率B、地方創生に関する起業支援金及び移住支援金の双方の交付を受ける場合には特別利率Cが適用され得ます。複数の区分に該当し得る場合には、いずれの適用がより有利かを確認することが望まれます。

併用が可能とされている特例制度

新規開業・スタートアップ支援資金には、経営者保証免除特例制度、創業支援貸付利率特例制度及び賃上げ貸付利率特例制度を併用することができるものとされています。

経営者保証免除特例制度は、一定の要件を満たす場合に経営者保証を不要とするものです。創業支援貸付利率特例制度及び賃上げ貸付利率特例制度は、いずれも利率の引下げに関する特例です。

これらの適用の有無によって調達コスト及び経営者の負担が変わりますので、申込みの段階で該当性を確認しておくべきです。

申込みから融資実行までの流れ

まず、創業計画書、資金繰り表、見積書、許認可に関する資料、自己資金を確認できる預金通帳などの必要書類を準備いたします。次に、支店の窓口又はインターネットにより申込みを行います。その後、面談において、事業計画の内容、自己資金の形成過程、経営者の経験、返済の見通しなどについて説明を求められます。必要に応じて事業所の確認が行われ、審査を経て融資の可否が決定され、契約手続を経て送金されます。

申込みから融資実行までは、書類の準備状況にもよりますが、おおむね1か月から2か月程度を要することが一般的です。開業予定日から逆算して準備することが必要です。

審査において重視される点

公庫が審査基準を公表しているわけではありませんが、実務上は、自己資金の額及びその形成過程、これから始める事業と関連する分野における職務経験、事業計画の合理性、税金及び社会保険料を含む信用情報、資金使途の明確性が重視されます。

特に、女性、若者又はシニアであることは利率の優遇に関する事情であり、審査そのものを有利にするものではありません。年齢又は性別の要件に該当することをもって融資が受けやすくなると理解されるのは誤りですので、ご注意ください。

資金使途の例

設備資金としては、店舗又は事務所の取得及び内外装工事の費用、機械設備、車両、什器備品、システム開発費用などが挙げられます。運転資金としては、仕入代金、人件費、家賃、広告宣伝費、当面の運転資金などが挙げられます。

いずれについても、設備資金は見積書と金額を一致させ、運転資金は何か月分の何を賄うための資金であるかを説明できるようにしておくことが必要です。

留意すべき点

第一に、制度名の変更です。前記のとおり、独立した制度としての「女性、若者/シニア起業家支援資金」は現存いたしません。旧制度名を前提とした情報に依拠して準備を進めますと、限度額、自己資金要件、据置期間などについて誤った前提を置くこととなります。

第二に、優遇されるのは利率であって審査ではないという点です。

第三に、無担保・無保証人が当然ではないという点です。旧新創業融資制度は制度そのものが無担保・無保証人を内容としておりましたが、現行制度では担保及び保証人の要否が一律に定まっているわけではありません。

第四に、返済義務を負う借入れであるという点です。補助金及び助成金と異なり、返済を要します。据置期間を長く設定した場合には、据置期間経過後の月々の返済額が増加いたします。

創業期に法的な検討を要する場面

創業期の資金調達は、資金を得ることのみで完結するものではありません。次のような場面では、契約及び会社法上の検討を要します。

共同創業者との間の株式の保有割合及び創業株主間契約の設計。出資を受ける場合の投資契約及び株主間契約の各条項(優先分配、買取請求、事前承諾事項等)の設計。役員報酬及び役員貸付金の整理。許認可を要する事業についての取得見通しと事業計画との整合。経営者保証を求められた場合に応じる範囲。

これらは、後に事業が成長し、又は逆に行き詰まった場合において、深刻な紛争の原因となり得る事項です。初期の設計が後年の選択肢を大きく左右いたします。

よくあるご質問

女性、若者/シニア起業家支援資金は今も申し込めますか

独立した制度としては現存いたしません。新規開業・スタートアップ支援資金に申し込み、要件に該当する場合に特別利率Aの適用を受けることとなります。

女性であれば審査が有利になりますか

利率の区分に関する事情であり、審査そのものを有利にするものではありません。

35歳の誕生日を迎えていますが対象になりますか

若者に関する区分は35歳未満とされておりますので、申込時に35歳に達している場合には当該区分には該当いたしません。もっとも、他の区分に該当する可能性がありますので、ご確認ください。

自己資金がなくても申し込めますか

形式的な自己資金要件は撤廃されておりますが、自己資金の額及びその形成過程は審査において重視されます。

創業計画書の作成において押さえるべき点

日本政策金融公庫が公表している創業計画書の記載欄は、おおむね、創業の動機、経営者の略歴等、取扱商品・サービス、取引先・取引関係等、従業員、借入の状況、必要な資金と調達方法、事業の見通しに分かれております。

創業の動機については、これまでの職務経験及び市場の状況を踏まえた合理的な判断であることが伝わる記載が求められます。経営者の略歴等については、これから始める事業との関連性を意識し、担当した業務の内容、規模及び実績を具体的に記載いたします。在職期間の羅列では、計画の裏付けとしては機能いたしません。

必要な資金と調達方法の欄は、左右の合計が一致していなければなりません。事業の見通しの欄については、売上高を客単価と客数、単価と受注件数、稼働率と単価といった要素に分解し、その根拠を示すことが求められます。根拠のない右肩上がりの計画は、かえって計画全体の信頼性を損ないます。

面談において確認される事項

面談では、なぜこの事業を始めるのか、なぜ今なのか、競合と比較して何が優位なのか、売上の見込みの根拠は何か、自己資金はどのように蓄積したのか、生活費はどの程度必要か、返済原資をどのように確保するのか、計画どおりに進まなかった場合にどう対応するのか、といった点が確認されます。

いずれも、計画書に記載した内容をご自身の言葉で説明できることが前提となります。第三者が作成した計画書の内容を説明できない場合には、計画の実在性そのものが疑われることになりかねません。

創業期に検討し得る他の資金調達手段

信用保証協会の保証付融資

信用保証協会の保証を付して民間金融機関から融資を受ける方法です。創業者向けの保証制度が設けられており、公庫融資と併せて検討されることが少なくありません。保証料が別途必要となります。

なお、信用保証付融資については、令和6年3月15日から、保証料率の上乗せにより経営者保証を提供しないことを選択できる「事業者選択型経営者保証非提供制度」が開始されております。

自治体の制度融資

都道府県又は市区町村が、金融機関及び信用保証協会と連携して実施する融資です。利子補給や保証料の補助が受けられる場合がありますが、あっせんから実行までに時間を要する傾向があります。

補助金及び助成金

返済を要しない資金ですが、多くは事後精算であり、まず自己資金又は借入れによって支出する必要があります。採択が保証されているものでもありませんので、資金繰り計画において確定的な収入として織り込むことは適切ではありません。

出資による調達

返済義務を負わない反面、株式の一部を手放すこととなりますので、持株比率、種類株式の内容及び投資契約の各条項の設計が極めて重要となります。

融資が否決された場合の対応

同一の内容で直ちに再申込みを行っても、結果が変わることは通常期待できません。一般には、一定期間を空けたうえで、否決の原因と考えられる事情を改善して再度申し込むこととなります。

実務上、否決の原因は、自己資金の不足、事業計画の根拠の薄弱さ、経験の不足、信用情報上の問題、資金使途の不明確さのいずれかに起因することが多いといえます。公庫のみに依存せず、信用保証付融資、自治体の制度融資、出資による調達など、複数の選択肢を並行して検討することが現実的です。

まとめ

女性、若者/シニア起業家支援資金は、令和6年3月末をもって独立した制度としては廃止され、新規開業・スタートアップ支援資金に統合されました。現在は、同資金における特別利率Aの区分として、女性の方、35歳未満の方及び55歳以上の方に対する利率の優遇が維持されております。

現行制度の融資限度額は7,200万円、返済期間は設備資金20年以内・運転資金10年以内、据置期間はいずれも最長5年とされ、自己資金要件は撤廃されております。他方で、無担保・無保証人が当然の取扱いではなくなっておりますので、経営者保証免除特例制度の適用の可否を個別に検討する必要があります。

なお、出資契約、株主間契約、経営者保証、許認可その他の法的な検討を要する事項につきましては、弁護士法人M&A総合法律事務所においてご相談を承っております。資金調達の設計と法的な設計とは表裏の関係にありますので、あわせてご検討いただくことをお勧めいたします。

参考:日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」

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