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金融機関からの借入れは、新たに融資を受けるために審査と手続を整える場面と、すでにある借入れの条件を見直す場面とに分かれますので、次のとおり切り分けます。本ページは、金融機関に示す資金繰り表の作り方と説明の順序を扱います。
▶ 資金繰りの改善|資金ショートを防ぐ方法と、返済が困難になった場合の選択肢
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決算書の写しを持参して取引金融機関の窓口に赴いたところ、担当者から「月次の資金繰り表を出してください」と求められ、何をどの単位で並べればよいのか分からないまま数週間が過ぎている。売上は前年並みで、当期は黒字である。それでも話が前へ進まない。このような場面で足踏みをしている経営者の皆様が数多くいらっしゃいます。
金融機関の担当者が知りたいのは、過去一年間にいくらの利益が出たかではなく、これから先の各月末に現金がいくら残るかです。決算書は年に一度、しかも過ぎ去った期間について作られる書類ですから、この問いに答える力を持ちません。答えるための書類が資金繰り表であり、これは決算書とは別に、会社の側で組み立てるほかない資料です。
結論から申し上げます。資金繰り表は、数字の細かさによってではなく、各行の前提に根拠となる書面を添え、外れたときの改訂の手順をあらかじめ示すことによって、はじめて審査の材料になります。会社法第431条は、株式会社の会計は一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとすると定めており、この慣行に沿った帳簿から起こした数値であることが、資料の信頼の土台となります。以下、順にご説明します。
本記事が扱う場面と、扱わない場面
資金の話は、資料を作る場面と、契約や取引の中身を決める場面とに分かれますので、次のとおり切り分けます。
- 資金繰り表という資料を作り、金融機関へ説明する場面……本記事
- 借入契約に付された数値の約束に触れてしまった場面……借入契約に付される財務制限条項と、抵触した場合の実務
- 買主として買収の資金を手当てする場面……M&Aの資金をどのように調達するか 自己資金、借入れ及び対価の分割
- 資金繰りの改善そのものの全体像を知りたい場面……資金繰りの改善|資金ショートを防ぐ方法と、返済が困難になった場合の選択肢
決算書を見せるだけでは、資金繰りの話は進みません
会社法第435条第2項は、株式会社が各事業年度に係る計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書を作成しなければならないと定めています。ここでいう計算書類は、貸借対照表と損益計算書を中核とする書類であり、作成の単位は事業年度です。つまり、決算書が答えられるのは一年という粗い刻みの問いに限られます。
これに対し、支払は毎月訪れます。給与の支給日、社会保険料の納付日、仕入代金の決済日、借入金の約定返済日は、いずれも月の中の特定の日に固定されています。年間で見て資金が回っていても、ある月の25日に現金が足りなければ、その一点で会社は止まります。金融機関が月次の資料を求めるのは、この一点の有無を見るためです。
さらに、損益計算書には現れないのに現金を大きく減らす項目があります。借入金の元本の返済、設備の取得、在庫の積み増し、売掛金の回収の遅れがそれに当たります。利益が出ている会社が資金に窮する原因は、ほとんどがこの四つのいずれかです。
資金繰り表は、損益計算書とは別のものです
損益計算書は、収益と費用を発生した時点で計上する考え方によって作られます。資金繰り表は、現金及び預金が実際に動いた時点で記録します。3月に納品して5月末に入金される売上は、損益計算書では3月に、資金繰り表では5月に現れます。
資金繰り表の骨格は、前月からの繰越現金預金に、経常収支、経常外収支及び財務収支を加減して、翌月への繰越現金預金を導く形です。経常収支は日々の営業に伴う入金と出金、経常外収支は設備の売買や保険の解約といった臨時のもの、財務収支は借入れによる収入と元本の返済による支出です。この三段に分けることで、資金が減っている原因がどの層にあるかが一目で分かります。
作成の出発点は会計帳簿です。会社法第432条第1項は、株式会社が法務省令で定めるところにより適時に正確な会計帳簿を作成しなければならないと定めています。総勘定元帳、預金出納帳、売掛金元帳及び買掛金元帳から数値を起こしてください。記憶によって入力した数値は、必ずどこかで帳簿と食い違い、その一点から資料全体の信頼が崩れます。
実績と見込みをどこで区切るのか
区切りは、月次の締めが完了した最後の月です。その月までを実績、翌月以降を見込みとし、表の上で罫線と見出しによって明確に分けてください。区切りの位置を口頭で説明する形にしますと、読み手はどこまでが確定した数字なのかを判断できず、全体を見込みとして扱います。
実績の欄の各月末の現金及び預金の残高は、預金通帳の残高と手許現金の実査額の合計に一致していなければなりません。ここが一致しない表は、以後の見込みがどれほど精緻でも読まれません。提出の前に、通帳の写しを横に置いて一行ずつ突き合わせてください。
期間の長さは、実績を6か月、見込みを12か月とする形が扱いやすい標準です。実績が3か月に満たない場合は、季節の変動を読み取ることができませんので、過去の月次試算表を遡って補ってください。翌月以降は区切りを1行ずつ前へ送るだけとし、期間の取り方そのものを毎回変えてはなりません。
入金と出金をどの単位で並べるのか
基本は月次です。ただし、残高が月商の1か月分を下回っている場合には、月次では危険な日を見落としますので、5日、10日、15日、20日、25日及び月末という支払日の刻みに合わせた旬別、又は週次に切り替えてください。
入金の欄は、得意先ごとの回収の条件別に行を分けます。現金売上、月末締めの翌月末入金、月末締めの翌々月10日入金、受取手形の決済といった具合です。手形は振出しの月ではなく決済期日の月に置きます。割引に付する予定がある場合は、割引による収入を別行にします。
出金の欄は、仕入代金、外注費、人件費、法定福利費、地代家賃、リース料、公租公課、借入金の元本返済、支払利息に分けます。ここで最も誤りが多いのが、消費税の納付、賞与、決算に伴う法人税等の納付を12で割って各月に均してしまう処理です。これらは実際に納付し又は支給する月に、その全額を立ててください。均した瞬間に、表は最も危険な月を隠す道具に変わります。
前提となる数値の根拠を添える
見込みの各行の右側に、根拠となる書面の名称を書く欄を設けてください。売上の入金であれば受注残高一覧表と基本契約書、回収の条件であれば得意先別の取引条件一覧、人件費であれば給与台帳と社会保険料の納入告知書、公租公課であれば申告書と納付書、借入金の返済であれば各金融機関の返済予定表です。書面の名称が入らない行は、見込みではなく願望です。
帳簿そのものの信頼についても、示すことができる根拠があります。青色申告の承認を受けている法人については、法人税法第126条第1項が、財務省令で定めるところにより帳簿書類を備え付けてこれに取引を記録し、かつ当該帳簿書類を保存しなければならないと定めています。個人で事業を営んでいる場合は、所得税法第148条第1項が同様の義務を定めています。この備付けと保存が実際に行われていることを示せば、数値の出所についての疑いは大きく減ります。
会計の処理の方針についても一言を添えてください。中小企業については、中小企業の会計に関する検討会が平成24年2月に公表した「中小企業の会計に関する基本要領」があり、これに拠って計算書類を作成している旨を記載する例が実務上定着しています。会社法第431条にいう一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に沿っていることの、具体的な説明になります。
見込みが外れた場合に、どのように改訂するのか
見込みは外れます。外れること自体は信用を損ないません。損なうのは、外れたことを黙っていることと、外れた後も同じ表を出し続けることです。したがって、最初に資金繰り表を提出する時点で、改訂の約束を文書で添えてください。たとえば、毎月10日までに前月の実績を反映した改訂版を提出する、という約束です。
改訂版には、差異の説明の欄を設けます。項目、当初の見込額、実績額、差額、差額が生じた原因、そして今後の対応の五つを一行に並べる形が読みやすい形です。原因の欄には、一時的な事情か、構造的な事情かの別を必ず書いてください。この区別ができていないと、読み手は最も悪い方に解釈します。
下振れが3か月続いた場合には、行の数字を差し替えるのではなく、前提そのものを組み替えてください。回収の条件が変わったのか、受注の単価が下がったのか、稼働が落ちたのか。前提を据え置いたまま各行を下方に修正する作業を繰り返しますと、表はやがて意味を失います。
複数の金融機関へ示す場合の整合
取引先が複数ある場合、各先に別々の数字を示してはなりません。金融機関の間では、保証協会の保証や信用情報を通じて、会社の借入れの状況が把握されています。異なる資料が突き合わされた瞬間に、内容の当否とは無関係に、経営者の姿勢そのものが問われます。用いる資金繰り表は一つとし、宛先だけを変える運用にしてください。
あわせて、借入金の明細を1枚にまとめた一覧を添付します。記載する項目は、借入先の名称、当初の借入額、実行日、現在の残高、約定の返済額、最終の返済期日、担保の内容、保証の有無、そして保証協会の保証付きかそれ以外かの別です。この一覧の毎月の返済額の合計が、資金繰り表の財務収支の欄の元本返済額と一致していなければなりません。
一致の確認は、提出前に必ず行ってください。返済予定表の束を並べ、月ごとに合計し、該当する欄と突き合わせる。ここでの不一致は、資料の作成者が自社の借入れを把握していないことの証明として受け取られます。
なぜ楽観的な見込みを示すと信用を失うのか
高い数字を示せば評価が上がる、という理解は誤りです。金融機関は、提出された見込みを翌月以降の実績と突き合わせて記録します。1回目に大きく下振れした時点で、以後に提出されるすべての数値が割り引かれて読まれるようになります。割引の幅は説明によって元に戻すことができず、実績の積み上げによってしか回復しません。
見込みを立てる際は、売上を確度によって層に分けてください。契約書又は注文書を受領済みのもの、見積書を提出して先方の内示があるもの、引合いの段階にとどまるものの三層です。資金繰り表に入れてよいのは第一層であり、第二層は金額を保守的に見積もったうえで別行に、第三層は入れません。
保守的な見込みを示して結果が上振れした場合、次に提出する表の説得力は目に見えて増します。資金繰り表は一度きりの提出物ではなく、毎月続く報告の第一回です。第一回で背伸びをすることの代償は、その後の全期間にわたって支払うことになります。
専門家に相談すべき場面と、相談の前に整えておく資料
次の四つのいずれかに当てはまる場合には、社内での作業を続ける前に、外部の専門家に状況を見てもらってください。第一に、3か月以内に月末の現金残高が不足する月が生じている場合。第二に、複数の借入れの返済が同じ月に重なり、その月だけ突出して支出が増える場合。第三に、社会保険料又は税の納付に遅れが生じている場合。第四に、取引先から支払の条件の変更を申し入れられている場合です。
相談に先立って整えておく資料は、直近3期分の決算書及び勘定科目内訳明細書、直近の月次試算表、すべての借入れの返済予定表、直近6か月分の預金通帳の写し、得意先別及び仕入先別の残高と取引の条件を記した一覧、公租公課の納付の状況が分かる書面、そして作りかけの資金繰り表です。完成していなくても構いません。どこで手が止まったかが分かる状態のほうが、助言は具体的になります。
相談する相手は、内容によって分かれます。会計及び税務の処理については税理士又は公認会計士が担い手です。契約の解釈や、法律上の判断を要する事項については、弁護士その他の資格を有する専門家にご相談ください。
いま確認していただきたいこと
まず、直近の月末の預金残高の合計を、通帳の記載から書き出してください。次に、翌月に支払わなければならない金額を、給与、社会保険料、仕入代金、家賃、借入金の元本と利息の順に書き出し、合計します。この二つの数字の差が、いま会社に残されている余裕です。
続いて、向こう3か月の入金の見込みを、得意先ごとに、契約書又は注文書のある分だけ書き出してください。そのうえで、各月末の残高を計算します。どこかの月で残高が不足するのであれば、その月が期限です。不足しないのであれば、同じ作業を12か月分に伸ばしてください。
最後に、借入金の返済予定表をすべて集め、金融機関ごとの毎月の返済額を合計してください。この合計額が、月次の営業による現金の増加額を上回っている場合、現在の返済の水準は事業の稼ぐ力を超えています。
よくあるご質問
資金繰り表は表計算の書式でよいのですか
書式に定めはありません。重要なのは体裁ではなく、実績と見込みの区切りが明示されていること、各月末の残高が通帳と一致していること、前提の根拠が併記されていることの三点です。会計ソフトが出力する書式をそのまま用いる場合も、この三点を満たしているかを確認してください。
何か月先まで作れば足りますか
見込みは12か月分が標準です。設備投資の計画がある場合には、年次の粗い形で3年程度まで伸ばした表を別に添えます。ただし、月次の12か月分が精緻に作られていない状態で3年の表を出しても、後者は読まれません。順序は月次が先です。
過去に出した表と数字が食い違っている場合はどうしますか
差し替えたうえで、食い違いの理由を1枚の書面で説明してください。原因が集計の誤りであれば、その旨を率直に記し、再発を防ぐための社内の手順の変更をあわせて示します。原因が事業の変化であれば、その変化の内容を書きます。
試算表を毎月作っていないのですが、それでも作成できますか
預金通帳と現金出納帳があれば、実績の部分は作成できます。ただし、試算表がない状態では売掛金と買掛金の残高が把握できませんので、見込みの精度は上がりません。会社法第432条第1項が求める適時性は、年に一度まとめて記帳する運用では満たされません。
説明の場に誰が出席すべきですか
資料を作った担当者と、経営の判断を行う立場の方の双方です。数字の出所を問われたときに即答できることと、対応の方針を問われたときに即答できることの両方が必要だからです。
おわりに
資金繰り表は、金融機関を説得するための道具である前に、経営者が自社の期限を知るための道具です。実績を通帳と一致させ、見込みには根拠となる書面を添え、外れたときには自ら先に報告する。この三つを守るだけで、資料の受け取られ方は大きく変わります。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
本記事の位置付け
本記事は情報の提供を目的とするものであり、個別の事案についての法律上の判断を示すものではありません。法律上の判断を要する事項については、弁護士その他の資格を有する専門家にご相談ください。
M&A総合アドバイザーズ 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)
出典
- 会社法第431条(会計の原則)、第432条第1項(会計帳簿の作成及び保存)、第435条第2項(計算書類等の作成及び保存)
- 法人税法第126条第1項(青色申告法人の帳簿書類)
- 所得税法第148条第1項(青色申告者の帳簿書類)
- 「中小企業の会計に関する基本要領」(中小企業の会計に関する検討会、平成24年2月)
具体的なご相談をお考えの皆様へ
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