借入契約に付される財務制限条項と、抵触した場合の実務

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金融機関からの借入れは、新たに融資を受けるために審査と手続を整える場面と、すでにある借入れの条件を見直す場面とに分かれますので、次のとおり切り分けます。本ページは、借入契約に付される財務制限条項と抵触した場合の実務を扱います。

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数年前に設備の更新のために組んだ長期の借入れについて、決算の数字が固まった直後に、取引金融機関から「特約条項に触れています」という連絡が入った。返済は一度も遅れていない。利息も約定どおり支払っている。それなのに、契約書の綴りの後ろの方に書かれていた一行が理由で、期限の利益を失いかねないと告げられる。こうした場面は、業績が一時的に落ち込んだ年に集中して生じます。

この一行は財務制限条項と呼ばれ、貸付人が、借主の財務の状態が一定の水準を下回らないことを、返済期日までの間の継続的な約束として求めるものです。返済の遅れが起きてから対応するのでは遅いという貸付人の側の必要から置かれる条項であり、金額の大きい証書貸付や、複数の金融機関が協調して行う貸付けでは、置かれていない方が例外です。

結論から申し上げます。財務制限条項に触れても、それだけで直ちに全額の一括返済を求められるわけではありませんが、貸付人からの請求があった時点で履行期が到来しますので、抵触の判明から通知までの日数が、その後のすべてを決めます。民法第137条が期限の利益の喪失について定めるほか、契約はこれとは別に約定による喪失の事由を置いており、その内容の確認が最初の作業になります。以下、順にご説明します。

本記事が扱う場面と、扱わない場面

借入れをめぐる問題は、契約の条項を読む場面と、資料を作って説明する場面とに分かれますので、次のとおり切り分けます。

契約書の後ろの方に、達成しなければならない数値が書かれています

金銭の貸付けは、民法第587条にいう消費貸借です。同条は、消費貸借が、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずると定めています。返還の時期については民法第591条第1項が、当事者が返還の時期を定めなかったときは貸主が相当の期間を定めて返還の催告をすることができると定めています。裏を返せば、時期を定めた場合には、その時期までは返還を求められないという利益が借主に生じます。これを期限の利益と呼びます。

財務制限条項は、この期限の利益を一定の条件の下で取り上げるための仕組みです。契約書の本体には、貸付の金額、利率、返済の方法といった中心的な条件が並びますが、財務上の約束は「特約条項」「借主の遵守事項」といった見出しの下に、後ろの方でまとめて置かれるのが通常です。締結の場では読み上げられないことが多く、決算の後にはじめて意識される条項です。

まず行うべきは、すべての借入契約書を集め、この見出しの部分を抜き出して一覧にすることです。契約ごとに、判定の対象となる指標、基準となる数値、判定の時点、報告の期限、そして抵触した場合の効果を、表の形で並べてください。この一覧を持っていない状態では、どの契約が危ないのかを判断できません。

よく置かれる条項の類型

第一に、純資産の維持を求める類型です。各事業年度の末日における純資産の額が、直前の事業年度の末日又は基準となる事業年度の末日の額の一定の割合を下回らないこと、という定め方が中心です。割合は75パーセントや80パーセントといった水準で置かれます。

第二に、利益の維持を求める類型です。各事業年度の損益計算書における経常損益又は営業損益が2期連続して損失とならないこと、という定め方が典型です。単年度の赤字は許容し、連続を禁ずるという構造になっています。第三に、有利子負債の額が償却前の営業利益の一定の倍数を超えないこと、という形で負債の水準を制限する類型があります。

このほか、他の債権者のために担保を差し入れることを制限する類型、計算書類その他の資料を一定の期限までに提出することを義務付ける報告の類型、支配株主の変動、剰余金の配当及び主要な資産の処分について事前の承諾を求める類型が置かれます。数値の基準だけに目を奪われず、これらの行為を制限する条項も同じ一覧に書き出してください。

どの時点の計算書類で判定されるのか

判定の資料は、会社法第435条第2項に基づいて作成される各事業年度に係る計算書類です。したがって、判定の時点は原則として各事業年度の末日となり、判定が可能になるのは決算の数字が固まった後です。契約によっては、事業年度の中間の時点を判定の時点として加えている例があり、この場合には年に2回の判定を受けることになります。

判定に用いる計算書類は、監査を経たものとされているのが通常です。会社法第436条第1項は、監査役設置会社においては、前条第2項の計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書が、法務省令で定めるところにより監査役の監査を受けなければならないと定めています。監査を経る前の速報値では判定できない旨が明記されている契約もありますので、条項の文言を確認してください。

もう一点、単体の計算書類によるのか、連結の計算書類によるのかの別を必ず確認してください。子会社を有する会社では、単体では基準を満たしていても連結では下回る事態が生じます。判定の時点、判定の資料、判定の主体の三つを、契約ごとに書き出しておいてください。

抵触した場合に直ちに起きること

抵触の事実が生じても、その瞬間に借入金の全額が返済期日を迎えるわけではありません。契約の多くは、抵触があった場合に「貸付人の請求により」期限の利益を喪失する、という構造を採っています。請求を要する型と、請求を要せず当然に喪失する型とがありますので、どちらであるかを条項から読み取ることが最初の分岐です。

民法第137条は、債務者が破産手続開始の決定を受けたとき、債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたとき、債務者が担保を供する義務を負う場合においてこれを供しないときには、債務者が期限の利益を主張することができないと定めています。財務制限条項への抵触はこの三つのいずれにも当たりませんので、効果は契約の定めによってのみ生じます。だからこそ、条項の文言が決定的な意味を持ちます。

請求を受けた場合、その時点で返還債務の履行期が到来します。民法第412条第1項は、債務の履行について確定期限があるときは、債務者はその期限の到来した時から遅滞の責任を負うと定めています。遅滞に陥った後の損害賠償の額は、民法第419条第1項により、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定められ、約定利率が法定利率を超えるときは約定利率によることとされています。

実務の運びとしては、請求が直ちに行われるよりも、抵触の通知、原因の説明、条件の見直しという協議が先行することが通常です。ただし、これは放置してよいという意味ではありません。会社の側から先に申し出た場合と、貸付人の側が決算書を見て気付いた場合とでは、協議の出発点がまったく異なります。

猶予を求める場合に用意する資料

用意すべき資料は四つに整理できます。第一に、抵触の事実そのものです。どの条項の、どの指標が、基準に対していくら不足しているのかを、計算の過程を示して記します。第二に、抵触に至った原因です。第三に、翌期以降の見通しです。第四に、是正の具体策と、それが完了する時期です。

原因の説明では、金額の内訳を示すことが要点になります。固定資産の除却損、退職給付に係る費用の見直し、繰延税金資産の取崩しといった項目がいくら影響したのかを金額で示し、一時的な事情によるものか、収益の構造の変化によるものかを明確に区別してください。この作業を経ずに「一時的なものです」とだけ述べても、判断の材料にはなりません。

協議が調った場合には、権利を行使しない旨の同意を必ず書面で受領してください。対象となる事業年度、対象となる条項、同意の効力が及ぶ範囲を明記した書面です。口頭での了解は、担当者の異動によって失われます。あわせて、社内では取締役会の議事録に、抵触の事実、協議の経過、同意の内容を残してください。

他の借入れへ波及する定め

借入契約には、他の債務について期限の利益の喪失その他の一定の事由が生じた場合に、本契約についても同様の効果が生ずる旨の条項が置かれることがあります。この条項があるために、一つの契約での抵触が、取引のあるすべての金融機関に及ぶ事態が生じます。

この条項には、通常、金額の下限が定められています。一定の金額を超える債務についてのみ波及する、という設計です。契約ごとにその金額を書き出し、自社の借入れのどれが該当するのかを確認してください。あわせて、リース契約や、代表者以外の第三者が差し入れている保証についても、同様の定めがないかを見ておく必要があります。

波及の関係が確認できたら、対応の順序を決めます。抵触が生じた契約の相手方への説明を最初に行い、その協議の結果を、波及の可能性がある他の相手方へ速やかに伝える。この順序を守らず、他の金融機関が第三者から事情を知った場合、説明の機会そのものを失います。取引のある金融機関が3社を超える場合には、説明の資料を共通のものとし、同じ週のうちに一巡させる運びが安全です。

抵触を避けるために期末の処理を操作してはならない理由

基準に届かない見込みが立った時点で、期末の会計処理によって数字を作ろうとする考えが生じます。売上の前倒しの計上、棚卸資産の過大な計上、引当金の計上の見送り、費用の翌期への繰延べがその典型です。これらはいずれも、行ってはならない処理です。

理由の第一は、会社法第431条が、株式会社の会計は一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとすると定めていることです。この慣行に反する処理によって作られた計算書類は、判定の資料としての適格を欠きます。第二に、会社法第436条第1項の監査の対象となる書類ですので、監査の過程で指摘を受ける可能性があります。第三に、翌期には必ず反動が生じます。前倒しに計上した売上の分だけ翌期の売上が減り、繰り延べた費用は翌期に二重に生じます。

そして最も重い理由は、発覚した場合の帰結です。基準に届かなかったという事実は、事業の一時の不調にすぎません。これに対し、数字を操作したという事実は、提出されるすべての資料の信頼を失わせます。届かないのであれば、届かないという事実を、原因とともに示してください。

なぜ締結の段階で数値の余裕を確かめる必要があるのか

財務制限条項は、締結の前であれば交渉の対象になりますが、締結の後は相手方の同意なしに変えることができません。したがって、条件の提示を受けた段階で、直近の実績を当てはめた試算を必ず行ってください。

試算の方法は単純です。純資産の維持を求める条項であれば、基準となる金額を計算したうえで、直近の純資産の額との差額を出します。この差額が、耐えることのできる当期純損失の限度です。利益の維持を求める条項であれば、直前期と当期の損益の状況から、あと何期の余裕があるのかを数えます。

そのうえで、耐えられる幅が1期分の損益の振れの範囲に収まっている場合には、水準の緩和、判定の時点の変更、抵触した場合の猶予の期間の設定を申し入れてください。設備の除却、退職金の支給、貸倒れの発生といった一時の事象で簡単に割り込む水準であれば、その条項は事業の実態に合っていません。締結の前に一度試算を行う手間は、抵触の後の協議に費やす時間と比べれば、はるかに小さいものです。

専門家に相談すべき場面と、相談の前に整えておく資料

次の場合には、社内での検討を続ける前に外部の専門家に相談してください。第一に、決算の見込みの段階で基準に届かないことが判明した場合。第二に、貸付人から抵触の指摘を受け、期限の利益の喪失に言及された場合。第三に、他の借入れへ波及する定めがあり、複数の金融機関との協議が必要になる場合。第四に、新たな借入れの条件として提示された条項の水準が、自社の実績に照らして厳しいと感じられる場合です。

相談の前に整えておく資料は、すべての借入契約書の写し、直近3期分の計算書類及び附属明細書、当期の決算の見込みの計算資料、借入金の一覧と返済予定表、そして条項ごとの判定の結果を書き出したものです。契約書の写しは、後から差し入れた覚書や条件変更の合意書を含めて集めてください。条項の内容が、当初の契約書ではなく後の覚書によって変更されている例が少なくありません。

条項の解釈、期限の利益の喪失の効果、同意の書面の内容といった法律上の判断を要する事項については、弁護士その他の資格を有する専門家にご相談ください。計算書類の作成と会計処理の当否については、税理士又は公認会計士が担い手となります。

いま確認していただきたいこと

手元にあるすべての借入契約書を並べ、「特約条項」「遵守事項」「期限の利益の喪失」という語を含む条を抜き出してください。抜き出した条ごとに、指標の名称、基準となる数値、判定の時点、単体か連結かの別、抵触した場合の効果、そして他の債務への波及の有無を一覧にします。

次に、直近の計算書類の数値をその一覧に当てはめ、各条項について現在の余裕の幅を金額で書き出してください。余裕の幅が、直近3期の損益の振れ幅よりも小さい条項には印を付けます。その印の付いた条項が、今期に注意を要する箇所です。

最後に、資料の提出の期限を確認してください。計算書類や試算表の提出を怠ったことが、それ自体で期限の利益の喪失の事由とされている契約があります。社内の締切りを条項上の期限の2週間前に設定してください。

よくあるご質問

抵触したことを自分から申し出るべきですか

申し出てください。契約に報告の義務が定められている場合には、申し出ないこと自体が別個の違反となります。定めがない場合であっても、決算書の提出によっていずれ判明します。会社の側から原因と対応をあわせて示した場合と、指摘を受けてから釈明する場合とでは、協議の進み方が大きく異なります。

1期だけの赤字でも抵触しますか

条項の類型によります。利益の維持を求める条項は2期連続の損失を要件としている例が多く、単年度の赤字では抵触しません。これに対し、純資産の維持を求める条項は、単年度の損失によって純資産が基準を割り込めば抵触します。

同意を得た後も同じ条項は残りますか

残ります。権利を行使しない旨の同意は、原則として当該事業年度の当該抵触についてのものです。翌期についても抵触が見込まれる場合には、条項そのものの変更を申し入れる必要があります。同意の書面に、対象となる事業年度が明記されているかを必ず確認してください。

信用保証協会の保証が付いている借入れにも置かれますか

保証付きの小口の借入れに財務制限条項が置かれることは通常ありません。置かれるのは、金額の大きい証書貸付や、複数の金融機関が協調して行う貸付けです。ただし、保証の有無にかかわらず報告の義務や担保の差入れの制限は置かれることがあります。

抵触の状態で新たな借入れはできますか

できないわけではありませんが、既存の抵触について協議が調い、その内容を書面で示すことができる状態にしてから申し入れてください。抵触を伏せたまま申し入れ、後に判明した場合には、申込みの時点における説明の内容そのものが問題とされます。

おわりに

財務制限条項は、借入れの期間中ずっと効き続ける約束です。締結の前に余裕の幅を数字で確かめ、締結の後は毎期その幅を追いかけ、届かない見込みが立った時点で自ら申し出る。この三つの動作を習慣にすれば、条項は経営を縛るものではなく、早い時期に手を打つための合図として働きます。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

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本記事は情報の提供を目的とするものであり、個別の事案についての法律上の判断を示すものではありません。法律上の判断を要する事項については、弁護士その他の資格を有する専門家にご相談ください。
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出典

  • 民法第137条(期限の利益の喪失)、第412条第1項(履行期と履行遅滞)、第419条第1項(金銭債務の特則)、第587条(消費貸借)、第591条第1項(返還の時期)
  • 会社法第431条(会計の原則)、第435条第2項(計算書類等の作成及び保存)、第436条第1項(計算書類等の監査等)

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