新規開業・スタートアップ支援資金とは?新創業融資制度からの変更点

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本記事は、日本政策金融公庫の創業融資を利用して事業を始めようとしている方と、事業開始後に追加の資金調達を検討している方に向けたものです。

現在、創業融資の中心となる制度は新規開業・スタートアップ支援資金であり、事業開始後おおむね7年以内の方が対象とされ、融資限度額は7,200万円に引き上げられています。もっとも、限度額は制度上の上限であり、実際の融資額は事業計画や自己資金等を踏まえて個別に判断されます。以下、順にご説明します。

創業期の資金調達を検討される際に、日本政策金融公庫の「新創業融資制度」を前提として情報を集めておられる方は少なくありません。

しかし、新創業融資制度は令和6年(2024年)3月末をもって廃止され、その役割は「新規開業・スタートアップ支援資金」に統合されました。現在、日本政策金融公庫で創業融資を検討する場合の中心となる制度は、この新規開業・スタートアップ支援資金です。

この記事では、廃止された新創業融資制度と現行の新規開業・スタートアップ支援資金との関係を整理したうえで、現行制度の内容、旧制度から実質的に何が変わったのか、申込みに際して押さえておくべき点を解説します。

新創業融資制度は廃止され、新規開業・スタートアップ支援資金に統合されました

新創業融資制度は、日本政策金融公庫が設けていた創業期向けの特例制度で、原則として無担保かつ無保証人で融資を受けられる点に特徴がありました。他方で、創業資金総額の10分の1以上の自己資金を有していることが要件とされ、融資限度額は3,000万円(うち運転資金は1,500万円)にとどまっていました。

この新創業融資制度は令和6年3月末をもって廃止され、従前の「新規開業資金」と統合される形で「新規開業・スタートアップ支援資金」に一本化されています。あわせて、従前独立した制度として設けられていた「女性、若者/シニア起業家支援資金」も統合され、現在は新規開業・スタートアップ支援資金における特別利率の区分として位置付けられています。

したがって、現在、創業融資について調べる場合には、制度名としては「新規開業・スタートアップ支援資金」を前提とする必要があります。インターネット上には旧制度を前提とした解説が多数残っておりますので、限度額、自己資金要件、据置期間などの数値を参照する際には、その情報がいつの時点のものかを必ず確認してください。

新規開業・スタートアップ支援資金の概要

利用できる方

新たに事業を始める方、または事業開始後おおむね7年以内の方が対象とされています。加えて、適正な事業計画を策定しており、当該計画を遂行する能力が十分にあると認められることが求められます。

旧制度は「新たに事業を始める方または事業開始後税務申告を2期終えていない方」を対象としており、創業直後のごく短い期間に限定されていました。現行制度は事業開始後おおむね7年以内までを対象としますので、創業から数年を経過した段階での追加調達にも用いることができます。

資金の使いみち

新たに事業を始めるため、または事業開始後に必要となる設備資金及び運転資金です。設備資金には店舗や工場の取得・改装費用、機械設備、車両、システム開発費用などが含まれ、運転資金には仕入代金、人件費、家賃、広告宣伝費などが含まれます。

融資限度額

7,200万円とされています。旧制度の3,000万円(うち運転資金1,500万円)と比較して大きく引き上げられており、設備投資を伴う創業案件にも対応しやすくなっています。

もっとも、限度額はあくまで制度上の上限であり、実際の融資額は事業計画の内容、自己資金の額、経営者の経験、業種の特性などを踏まえて個別に判断されます。限度額と実際に調達できる金額とは別のものであることに留意してください。

返済期間と据置期間

設備資金は20年以内(うち据置期間5年以内)、運転資金は10年以内(うち据置期間5年以内)とされています。

据置期間とは、元金の返済を猶予され利息のみを支払う期間をいいます。創業直後は売上が安定しないことが多いため、据置期間を適切に設定することは資金繰りの安定に直結します。もっとも、据置期間中も利息は発生し、据置期間の分だけ元金の返済期間が短くなりますので、月々の返済額は据置期間経過後に増加します。据置期間を最長に設定することが常に有利とは限りません。

利率

原則として基準利率が適用されますが、一定の要件を満たす場合には特別利率A、B又はCが適用されます。

特別利率Aの対象には、女性の方、35歳未満の方、55歳以上の方、認定特定創業支援等事業を受けて事業を始める方、中小企業の会計に関する基本要領等を適用する方などが挙げられています。旧「女性、若者/シニア起業家支援資金」に相当する優遇は、この区分に引き継がれています。

特別利率Bの対象には、ベンチャーキャピタル等から出資を受ける方、地域経済循環創造事業交付金の交付を受ける方などが、特別利率Cの対象には、地方創生に関する起業支援金及び移住支援金の双方の交付を受ける方が挙げられています。

自らがいずれの区分に該当するかは、事前に確認しておくことが望まれます。該当するにもかかわらず申告しなかったために基準利率で借り入れることとなった、という事態は避けるべきです。

担保及び保証人

担保及び保証人については、希望を伺ったうえで相談する取扱いとされています。

ここは旧制度からの実質的な変更点として特に注意を要します。旧新創業融資制度は、制度そのものが「無担保・無保証人」を内容としていましたが、現行制度では担保及び保証人の要否が一律に定まっているわけではありません。経営者保証を求められない取扱いを希望する場合には、後述する経営者保証免除特例制度の適用の可否を含めて、事前に相談する必要があります。

旧制度から実質的に何が変わったのか

自己資金要件の撤廃

旧新創業融資制度では、創業資金総額の10分の1以上の自己資金を有していることが要件とされていました。現行制度では、この形式的な自己資金要件は撤廃されています。

ただし、これは自己資金がなくとも融資を受けられるという意味ではありません。自己資金の額は、事業に対する準備の程度及び計画の実現可能性を示す重要な資料として、審査において引き続き重視されます。要件から外れたことと、審査で見られなくなったこととは異なります。

融資限度額の引上げ

3,000万円(うち運転資金1,500万円)から7,200万円へと引き上げられました。運転資金についての別枠の上限が旧制度のように設けられていない点も、実務上の差異として意味を持ちます。

据置期間の長期化

旧制度における据置期間は運転資金が最大1年、設備資金が最大2年でしたが、現行制度では設備資金・運転資金のいずれも最長5年とされています。創業初期の資金繰りに与える影響は小さくありません。

対象期間の拡大

税務申告を2期終えていない方から、事業開始後おおむね7年以内の方へと拡大されました。創業から数年を経過した成長期の追加調達にも用いることができます。

併用が可能とされている特例制度

経営者保証免除特例制度

一定の要件を満たす場合に、経営者保証を不要として融資を受けられる特例です。旧新創業融資制度が制度上当然に無保証人であったのに対し、現行制度では、この特例の適用を受けることによって経営者保証を回避する構成となります。

なお、信用保証協会の保証付融資については、令和6年3月15日から、保証料率の上乗せにより経営者保証を提供しないことを選択できる「事業者選択型経営者保証非提供制度」が開始されています。公庫融資と信用保証付融資とで経営者保証の扱いが異なりますので、資金調達の全体設計の中で整理する必要があります。

創業支援貸付利率特例制度

創業期の事業者について、利率の引下げを受けられる特例です。

賃上げ貸付利率特例制度

従業員の賃上げに取り組む事業者について、利率の引下げを受けられる特例です。

これらの特例は、適用の可否によって調達コストが変わりますので、申込みの段階で該当性を確認しておくべきです。

申込みから融資実行までの流れ

一般的な流れは次のとおりです。

まず、事業計画書、創業計画書、資金繰り表、見積書、許認可に関する資料、自己資金を確認できる預金通帳などの必要書類を準備します。次に、支店の窓口又はインターネットにより申込みを行います。その後、面談が実施され、事業計画の内容、自己資金の形成過程、経営者の経験、返済の見通しなどについて説明を求められます。面談後、必要に応じて事業所の確認が行われ、審査を経て融資の可否が決定されます。融資が決定した場合には契約手続を行い、指定口座へ送金されます。

申込みから融資実行までは、書類の準備状況によりますが、おおむね1か月から2か月程度を要することが一般的です。開業予定日から逆算して余裕をもって準備することが必要です。

審査において重視される点

公庫が審査基準を公表しているわけではありませんが、実務上、次の各点が重視されます。

第一に、自己資金の額とその形成過程です。金額そのものに加えて、どのように蓄積されたかが確認されます。申込みの直前に第三者から一時的に振り込まれた資金は、自己資金として評価されにくいのが実情です。

第二に、経営者の職務経験です。これから始める事業と関連する分野での経験の有無及び期間は、計画の実現可能性を裏付ける事情として重視されます。

第三に、事業計画の合理性です。売上予測の根拠、原価及び経費の見積り、資金繰りの見通しが、相互に整合していることが求められます。希望的観測に基づく売上計画は、かえって計画全体の信頼性を損ないます。

第四に、信用情報です。税金及び社会保険料の滞納、借入金の延滞、公共料金の支払遅延などは、審査に影響します。

第五に、資金使途の明確性です。設備資金については見積書との整合が、運転資金については必要額の算定根拠が確認されます。

創業期に検討し得る他の資金調達手段

信用保証協会の保証付融資(創業関連保証)

信用保証協会の保証を付して民間金融機関から融資を受ける方法です。創業者向けの保証制度が設けられており、公庫融資と併せて検討されることが少なくありません。保証料が別途必要となります。

自治体の制度融資

都道府県又は市区町村が、金融機関及び信用保証協会と連携して実施する融資です。利子補給や保証料補助が受けられる場合がありますが、あっせんから実行までに時間を要する傾向があります。

補助金及び助成金

返済を要しない資金ですが、多くは事後精算であり、まず自己資金又は借入れによって支出する必要があります。採択が保証されているものでもありませんので、資金繰り計画において確定的な収入として織り込むことは適切ではありません。

出資による調達

ベンチャーキャピタル、事業会社又は個人投資家からの出資を受ける方法です。返済義務を負わない反面、株式の一部を手放すこととなりますので、持株比率、種類株式の内容、投資契約における各条項(優先分配、買取請求、事前承諾事項、創業株主間契約等)の設計が極めて重要となります。ここは法的な検討を要する場面です。

創業融資に関して法的な検討を要する場面

創業期の資金調達は、資金を得ることのみで完結するものではありません。次のような場面では、契約及び会社法上の検討が必要となります。

共同創業者との間で株式をどのように保有するか。出資を受ける場合に、投資契約及び株主間契約の各条項をどのように設計するか。役員報酬及び役員貸付金をどのように整理するか。許認可を要する事業について、その取得の見通しを事業計画にどう反映するか。経営者保証を求められた場合に、どの範囲で応じるか。

これらは、後に事業が成長し、又は逆に行き詰まった場合に、深刻な紛争の原因となり得る事項です。資金調達の局面では見落とされがちですが、初期の設計が後年の選択肢を大きく左右いたします。

創業計画書の作成において押さえるべき点

日本政策金融公庫は創業計画書の様式を公表しており、記載欄はおおむね、創業の動機、経営者の略歴等、取扱商品・サービス、取引先・取引関係等、従業員、借入の状況、必要な資金と調達方法、事業の見通しに分かれています。

創業の動機については、思いつきではなく、これまでの職務経験及び市場の状況を踏まえた合理的な判断であることが伝わる記載が求められます。経営者の略歴等については、これから始める事業との関連性を意識して、担当した業務の内容、規模及び実績を具体的に記載します。単なる在職期間の羅列では、計画の裏付けとして機能いたしません。

取扱商品・サービスの欄では、何を、誰に、いくらで、どのように提供するのかを明確にします。売上構成比の見込みを併記すると、後述する事業の見通しとの整合を示しやすくなります。

必要な資金と調達方法の欄は、左右の合計が一致していなければなりません。設備資金については見積書と金額を一致させ、運転資金については、何か月分の何を賄うための資金であるかを説明できるようにしておきます。

事業の見通しの欄は、審査において最も重視される部分の一つです。売上高、売上原価、人件費、家賃、支払利息、その他の経費及び利益を、創業当初と軌道に乗った後との二時点について記載します。売上高については、客単価と客数、単価と受注件数、稼働率と単価といった要素に分解し、その根拠を示すことが求められます。根拠のない右肩上がりの計画は、かえって計画全体の信頼性を損ないます。

面談において確認される事項

面談では、創業計画書の内容に沿って、次のような点が確認されます。

なぜこの事業を始めるのか。なぜ今なのか。競合と比較して何が優位なのか。売上の見込みの根拠は何か。自己資金はどのように蓄積したのか。生活費はどの程度必要か。借入金の返済原資をどのように確保するのか。事業が計画どおりに進まなかった場合にどのように対応するのか。

いずれも、計画書に記載した内容を自らの言葉で説明できることが前提となります。第三者が作成した計画書の内容を説明できない場合、計画の実在性そのものが疑われることになりかねません。

なお、税金及び社会保険料の納付状況、公共料金の支払状況、既存の借入金の返済状況についても確認されます。滞納がある場合には、まずその解消を図ることが先決です。

融資が否決された場合の対応

公庫の融資が否決された場合、同一の内容で直ちに再申込みを行っても結果が変わることは通常期待できません。一般には、一定期間(おおむね6か月程度)を空けたうえで、否決の原因と考えられる事情を改善して再度申し込むこととなります。

否決の理由が明示されるとは限りませんが、実務上は、自己資金の不足、事業計画の根拠の薄弱さ、経験の不足、信用情報上の問題、資金使途の不明確さのいずれかに起因することが多いといえます。

また、公庫のみに依存せず、信用保証協会の保証付融資、自治体の制度融資、出資による調達など、複数の選択肢を並行して検討することが現実的です。

よくあるご質問

新創業融資制度はもう利用できないのですか

利用できません。令和6年3月末をもって廃止され、新規開業・スタートアップ支援資金に統合されております。

自己資金がなくても申し込めますか

形式的な自己資金要件は撤廃されておりますので、申込み自体は可能です。もっとも、自己資金の額及びその形成過程は審査において重視されますので、自己資金がない場合の審査は相当に厳しいものとなります。

無担保・無保証人で借りられますか

現行制度では担保及び保証人の要否が一律に定まっているわけではなく、希望を伺ったうえで相談する取扱いとされています。経営者保証を回避したい場合には、経営者保証免除特例制度の適用の可否を事前に確認してください。

創業から5年が経過していますが利用できますか

事業開始後おおむね7年以内の方が対象とされておりますので、対象となり得ます。旧制度は税務申告2期以内に限定されておりましたので、この点は大きな相違です。

7,200万円まで必ず借りられますか

7,200万円は制度上の限度額であり、実際の融資額は事業計画の内容、自己資金、経験、業種等を踏まえて個別に判断されます。限度額と実際の調達可能額とは別のものです。

まとめ

新創業融資制度は令和6年3月末をもって廃止され、新規開業・スタートアップ支援資金に統合されました。現行制度は、融資限度額が7,200万円、返済期間が設備資金20年以内・運転資金10年以内、据置期間がいずれも最長5年とされ、自己資金要件は撤廃されています。他方で、旧制度において当然とされていた無担保・無保証人の取扱いは一律のものではなくなり、経営者保証免除特例制度等の適用の可否を個別に検討する必要があります。

旧制度を前提とした情報がなお多く流通しておりますので、限度額、自己資金要件、据置期間などの数値を参照される際には、その情報の時点を必ずご確認ください。

なお、出資契約、株主間契約、経営者保証、許認可その他の法的な検討を要する事項につきましては、弁護士法人M&A総合法律事務所においてご相談を承っております。資金調達の設計と法的な設計とは表裏の関係にありますので、あわせてご検討いただくことをお勧めいたします。

参考:日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」
参考:中小企業庁「保証料率の上乗せにより経営者保証を提供しないことを選択できる信用保証制度等を開始します」(2024年3月15日)

この記事の位置付け

金融機関からの借入れは、新たに融資を受けるために審査と手続を整える場面と、すでにある借入れの条件を見直す場面とに分かれますので、次のとおり切り分けます。本ページは、新規開業の資金について新創業融資制度からの変更点を扱います。

本記事は、新規開業の資金について、新創業融資制度からの変更点を扱います。創業時に限らず、銀行・信用金庫・日本政策金融公庫・信用保証協会を使い分ける借入れの全体像は、次のページでご説明します。

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